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神戸地方裁判所 昭和58年(ワ)1160号 判決 1986年12月26日

原告

亡加藤文子承継人加藤洋一

ほか二名

被告

前川勝

ほか一名

主文

一  被告らは各自、原告加藤洋一に対し、金六二八万六一四六円、同竹本治子、同加藤文男に対し、金五八三万六一四六円ずつ及び右各金員に対する昭和五五年二月二二日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らの被告に対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は四分し、その一を原告らの、その余を被告らの各負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告らは各自、原告加藤洋一に対し、金八〇九万七〇七七円、同竹本治子、同加藤文男に対し、金七二九万七〇七七円ずつ、及び右各金員に対する昭和五五年二月二二日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告ら

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

(1) 日時 昭和五五年二月二二日午後七時一〇分ころ

(2) 場所 神戸市兵庫区荒田町三丁目五二番地先交差点(県道神戸三田線)

(3) 加害車 普通乗用自動車(神戸五五ぬ七四九四)

右運転者 被告 前川勝

(4) 被害者 訴外 加藤正男(大正二年一月二七日生)

(5) 態様 訴外加藤正男が原動機付自転車を運転して、対面青色信号に従い、本件交差点を南から北へ直進していたところ、対向車線を北から西へ右折しようとした加害車と衝突し、転倒負傷したものである。

2  責任原因

(1) 被告前川清の責任

被告清は、加害車を所有し、自己のために運行の用に供していたもので自賠法第三条の運行供用者責任

(2) 被告前川勝の責任

被告勝は、加害車を運転して、本件交差点を北から西へ右折しようとした際、前方不注視の過失により対向車線を南から北へ直進してきた、訴外正男運転の原動機付自転車と衝突し、同人を負傷せしめたものであり、民法第七〇九条の不法行為責任。

3  損害

(1) 訴外正男の受傷、治療経過及び死亡

(一) 受傷

頭部外傷、全身多発性複雑挫創、左眼窩壁骨折、骨盤骨折等

(二) 治療経過

入院

(い) 昭和五五年二月二二日から同年三月五日まで(一三日)近藤病院

(ろ) 昭和五五年三月五日から同年九月二九日まで(二〇九日)吉田病院

(は) 昭和五五年九月二九日から同年一〇月一日まで(三日)玉津福祉センターリハビリテーシヨンセンター付属中央病院

(三) 訴外正男は、本件事故により前記(一)の傷害を受けて、前記(二)の病院において治療、手術を受けたが、昭和五五年一〇月一日死亡した。

(2) 訴外正男の損害

(一) 治療関係費

(い) 治療費 精算ずみ

(ろ) 看護費 〃

(は) 入院雑費 〃

(二) 休業損害 金九二万八六五七円

訴外正男は、本件事故当時、長男である原告洋一の経営する眼鏡小売業(メガネのミエール)から、年額一五二万円の給料を支給されており、死亡までの休業期間は、二二三日なので計算式は次のとおりである。

152万円×223/365=92万8,657円

(三) 入院慰謝料 金一五〇万円

(四) 死亡による逸失利益 金五四六万二五七六円

訴外正男は、前述のとおり本件事故当時、年額一五二万円の収入があり、死亡時、六七歳で、就労可能年数は少くとも六年であり、同人の生活費を収入の三〇パーセントとすれば、その計算式は次のとおりである。

152万円×(1-0.3)×5.134=546万2,576円

(五) 死亡慰謝料 金一二〇〇万円

(3) 相続

文子は、訴外正男の妻であり、原告らはいずれも、右両名の子であるところ、訴外正男の死亡により、同人の権利をその法定相続分に従い、文子が三分の一、原告らが各九分の二宛相続した(文子が金六六三万〇四一一円、原告三名が各金四四二万〇二七四円)。

(4) 原告ら固有の損害

(一) 葬儀費用 金八〇万円

訴外正男の死亡により、その葬儀費用として金八〇万円を、原告洋一が負担した。

(二) 弁護士費用 金二〇〇万円

文子が金六六万六六六五円、原告三名が各金四四万四四四五円の合計金二〇〇万円。

4  文子は、本訴提起後の昭和五九年一月二七日死亡したので、本訴でもつて同人が請求していた損害賠償債権は原告らによつて相続された。その相続分は文子の請求額金七二九万七〇七六円の三分の一金二四三万二三五八円であるところ、これを原告加藤洋一、同竹本治子、同加藤文男の請求額にそれぞれ加算すれば、被告らは、各自原告加藤洋一に対し、金八〇九万七〇七七円及びこれに対する昭和五五年二月二二日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を、原告竹本治子、同加藤文男に対し各金七二九万七〇七七円及びこれに対する昭和五五年二月二二日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払う義務があり、原告らはその履行を求める。

二  請求の原因に対する被告らの認否

1  1項の事実は認める。

2  2項の責任原因については、被告前川清の責任を否認し、同前川勝の責任を認める。

3  3項の損害のうち、

(1) 正男の受傷などについては、(一) 受傷、(二) 治療経過はいずれも不知。(三) 死亡年月日のみ認め、その余は不知。

(2) 正男の損害については、(一)を認め、(二)、(三)を争い、(四)、(五)を否認する。

(3) 相続については、身分関係は不知、相続は否認。

(4) 原告ら固有の損害については、(一)、(二)のいずれも否認。

4  4項の事実は争う。

三  被告らの主張

(一)  正男は病死した。病名は、再発性イレウスである。よつて、同人の死亡は、本件事故と因果関係はない。正男の死亡を原因とする自賠責の被害者請求は、因果関係が認められず、支払われていない。前川勝の刑事責任は、正男の死亡後である昭和五六年一月、業務上過失「傷害」で略式罰金刑となった。「致死」ではない。

(二)  正男の生存中の損害の請求権は、事故日より三年を経過した昭和五八年二月二二日をもつて、あるいは、少くとも、本件提訴の前日である昭和五八年九月二一日までの間に、すべて時効により消滅した。

(三)  仮に然ずとするも、本件事故は、前川勝と正男との過失競合により発生した。正男の前方不注意のため本件事故が発生した要素が多分にある。したがつて、正男の生存中および死亡による損害については、過失相殺を適用すべきである。前川勝は、正男に対し、金八二八万六七一二円を支払い済みであり(その内訳は、治療費六一五万四〇九三円、付添看護費一六三万九三五九円、入院雑費四万三二六〇円、その余の賠償金四五万円)、過失相殺を適用すると、正男に支払うべき残額は皆無である。

(四)  事故車の所有者は前川勝で、したがつて、その運行供用者は、同人であり、清ではない。

四  被告らの右主張に対する原告らの反論

1  本件事故と正男の死亡との因果関係について

本件事故は昭和五五年二月二二日午後七時一〇分に発生し、正男は、神戸市立中央市民病院で頭部外傷Ⅱ型と診断されており、近藤病院へ移送され、午後九時二〇分に同院に収容された約二時間後の午後一一時二〇分より右不全マヒが出現、翌二三日のCTでかなり広汎な両側前頭部の急性硬膜下水腫が認められており、本件事故外傷による傷害による機序が明瞭に解明できる。

しかして正男は、再発性イレウスにより死亡したものであるが、右イレウス(腸閉塞)は本件事故に起因する硬膜下水腫と相当因果関係があるものであるから、同人の死亡は本件事故と相当因果関係があるものである。

2  被告らの消滅時効について

本件事故の発生日は昭和五五年二月二二日であるが、正男の死亡日は同年一〇月一日であるから、同人の死亡による損害賠償請求権の消滅時効の起算日は同年一〇月一日であり、時効期間である三年の満了前に本訴を提起しているので、被告らの消滅時効の主張は失当である。

また被告らは、正男の生存中の損害について消滅時効を主張するが、昭和五五年九月二九日までの吉田病院の治療費金九二万七八三〇円を同年一二月一〇日付送金して支払つており、債務の承認により時効は中断されているので、右主張は失当である。

五  原告らの時効中断の主張に対する被告らの認否

治療費の支払いがその余の債務の承認になるとの原告らの主張は否認する。原告ら主張の右治療費の支払いは、正男ないしは原告らに対して支払われたわけでなく、保険会社から病院宛直接支払われたもので、治療費以外の損害の時効消滅を中断する効力はなく、右支払いと関係なく、その余の損害の時効は進行すると解すべきで、原告らは、正男の生存中の損害については、休業損害と入院慰謝料のみを請求しており、これらはすべて、提訴の前日である昭和五八年九月二一日までの間に時効により消滅したものと解すべきである。

第三証拠

本件記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  事故の発生

請求原因1項の事実は当事者間に争いがない。

二  責任事由

1  成立に争いのない乙第一ないし第九号証によれば、本件事故現場は、交通整理の行われている交差点であつて、被告前川勝は、加害車両を運転して、同交差点を右折するに当り、予め中央に寄らず、かつ左前方不確認のまま右折し、青信号で同交差点に直進してきた正男運転の被害車両と衝突したことが認められ、それによれば、被告前川勝に、運転上の過失があることが明らかであるから、同被告は、民法七〇九条により正男の被つた損害を賠償する責任がある。

2  成立に争いのない甲第一号証、前記乙第七号証によれば、被告前川勝の父である同前川清は、加害車両を他から買受けた所有者であつて、加害車両の自動車登録にも所有者名義人となつていることが認められ、それによれば、特段の事情がない限り、被告前川清は、加害車両の運行供用者というべく、本件全証拠によるも、右特段の事情を発見することができない。

そうすると、同被告は、自賠法三条により、被告前川勝と連帯して、正男の被つた損害を賠償する責任がある。

三  正男の受傷、治療経過、死亡について

1  成立に争いのない甲第二ないし第四号証、第六ないし第八号証、第九号証の一、二、第一〇号証の一ないし四、第一一ないし第二二号証、第二六ないし第三六号証、第三八ないし第五九号証(いずれも原本の存在も当事者間に争いがない)、乙第一四、一五号証の各一、二を総合すれば、次の事実が認められる。

正男は、昭和五五年二月二二日午後七時一〇分ころ、本件事故で受傷後同日神戸市立中央市民病院に救急収容され、その際の医師福光太郎の診断では顔面口腔内恥骨部陰嚢多発性挫創、頭部外傷Ⅱ型、左眼窩下緑骨折となつていること、同病院において各創傷部位の縫合の後、近藤病院に移送され、同日二一時二〇分近藤病院の初診では頭部外傷Ⅲ型、多発性複雑挫創、左眼窩壁骨折、骨盤骨折との診断を受け、同年三月五日まで同病院に入院加療し、同日医療法人栄昌会吉田病院へ転医したこと、同病院において診察の結果、頭部外傷Ⅲ型(両側硬膜下水腫、人字縫合離開骨折)、骨盤骨折、左大腿頸部骨折、常圧脳水腫併発と診断され、同年三月一七日右脳水腫治療のため、両側々頭部穿頭術を施行されたこと、その後、交通性水頭症が認められたので、その治療のため、同年三月二八日脳室腹腔吻合術(髄液シヤント術)が施行され、以後、右吻合術を原因とする腸管癒着により、腸閉塞が長期にわたつて存在し、同年七月二八日、開腹術を受けたこと、そして正男は同年九月二九日、兵庫県リハビリテーシヨンセンター付属中央病院に転医したのち、同年一〇月一日同病院において再発性腸閉塞により悪影響を受けた循環不全を直接死因として死亡した、以上の各事実が認められ、これに反する証拠はない。

2  そこで、本件事故と正男の死亡との因果関係について判断する。

前掲各証拠に、神戸大学医学部脳神経外科に対する鑑定嘱託、鑑定人石川正恒の鑑定結果、原告加藤洋一本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すれば、(1) 正男は本件事故前すこぶる健康であつたこと、(2) 本件事故により正男が受けた頭部損傷は重大であり、とくに両側下水腫は頭蓋内亢進症状の原因となり、これを放置すれば慢性硬膜下血腫へと移行しうる病態となること、(3) それゆえ、吉田病院が昭和五五年三月一七日施行した両側々頭部穿頭術および、ついで発生した交通性水頭症に対し同月二八日施行した脳室腹腔吻合術(髄液シヤント術)は、いずれも臨床医学上、その処置が適切かつ有効であつたこと、(4) 正男は、右手術後、徐々に回復傾向にあつたところ、同年五月ごろから腹部消化器系に異常を訴え、同年七月二八日腸閉塞(腸の内容物が通らない症状)の開腹術を受けていること、(5) 前記脳室腹腔吻合術は、生体に最も異物反応の少ない物質(シリコン等)を用いたシヤント・チユーブを皮下を介して脳室から腹腔に連結させる手術であり、シヤント・チユーブの末端が腹腔内にあること、したがつて、シヤント・チユーブが腹膜腔臓器と癒着し、手術後それが原因で腸閉塞の起こる例が比較的多いこと、(6) 正男の場合、開腹時の状態は、前記シヤント・チユーブが腹腔内に入つた部分から臍部にかけて、大腸と小腸の癒着がみとめられ、前記腸閉塞が脳室腹腔吻合術の手術後の腸管癒着によつて起つたとの可能性が強いこと、(7) 正男の脳障害はその後改善され、腸閉塞症状も一進一退で同年九月末当時急を要する病態はなかつたため、同月二九日吉田病院から兵庫県リハビリテーシヨンセンター付属中央病院に転医したこと、(8) しかし、正男は、同年一〇月一日急に再発した腸閉塞の影響によつて、嘔吐や大量の水様便が頻度にきたし、それによりシヨツクを引き起こし、循環不全を直接原因として同日死亡するに至つたことが認められ、これに反する成立に争いのない乙第一六ないし第一八号証の記載は、前掲各証拠と対比して採用しない。

前記各認定事実によれば、本件事故と正男の死亡との間に相当因果関係があるものというべきである。

四  損害

1  治療費、付添看護費、入院雑費 七八三万六七一二円

成立に争いのない乙第一〇号証の一ないし六、第一一号証の一ないし二三、第一二号証の一ないし二三及び弁論の全趣旨を総合すれば、正男が前記各病院に入院中の治療費として六一五万四〇九三円、付添看護費として一六三万九三五九円、入院雑費として四万三二六〇円、以上合計七八三万六七一二円を要したことが認められる。

2  休業損害 九二万八六五七円

原告加藤洋一本人尋問の結果、同結果により真正に成立したものと認められる甲第三七号証によれば、正男は、本件事故当時、長男である原告洋一の経営する眼鏡小売業に従事し、年額一五二万円の給料を得ていたことが認められ、本件事故後死亡するまでの入院期間は二二三日であるから、正男の休業損害は、原告ら主張のとおり九二万八六五七円となる。

3  入院慰謝料 一五〇万円

4  死亡による逸失利益 五四六万二五七六円

正男は、前認定のとおり本件事故当時年額一五二万円の収入があり、死亡時六七歳であつたから就労可能年数を六年(これに対応するホフマン係数五・一三四)とし、同人の生活費を収入の三〇パーセントとして、逸失利益を計算すれば、原告ら主張のとおり五四六万二五七六円となる。

5  死亡慰謝料 一二〇〇万円

6  以上1ないし5の損害合計は二七七二万七九四五円となる。

五  時効の抗弁について

1  傷害による損害

傷害による損害については、正男が受傷した昭和五五年二月二二日を起算点として三年の消滅時効(民法七二四条)が進行するものであるが、前記乙第七号証、第一〇号証の四に弁論の全趣旨を総合すれば、被告らと加害車両の自動車保険契約を締結している日産火災海上保険株式会社神戸支店は、保険約款に基づき被告らを代理して正男側との損害金交渉をし、同年一二月一日、その当時正男が入院していた吉田病院に対し、同年九月二九日までの正男の治療費を送金して支払つていることが認められる。

右認定事実によれば、右治療費の支払は、被告らを代理して前記保険会社がこれをなしたものであるから、被告らが当時、右支払の事実を知らなかつたとしても、民法九九条により、右支払の結果が被告らに及び、また、吉田病院になされた正男の治療費支払は、社会通念上、経理上も、正男に対してなされたものというべきである。

そうすると、前記保険会社が同年一二月一日前記治療費の支払をなしたことによつて、正男の傷害による損害全部について、被告らが債務の承認をしたものというべく、右時点で前記消滅時効の進行が中断しているものであり、原告らは、右時点から三年を経過していない昭和五八年九月二二日本件損害賠償請求を提起していることが記録上明らかであるから、結局、消滅時効は完成していないこととなる。

2  死亡による損害

死亡による損害については、正男が死亡した昭和五五年一〇月一日から前記消滅時効が進行するものであるところ、同五八年九月二二日本訴が提起されているから、右損害についても消滅時効は完成していない。

よつて、被告らの抗弁は理由がない。

六  過失相殺について

前記乙第一ないし第九号証によれば、本件事故当時、被害車両(単車)を運転していた正男は、青信号に従つて交差点に進入しているものの、右折しかけている被告前川勝運転の加害車両に対する前方不確認のまま漫然、直進した過失のあつたことが認められる。しかし、正男の右過失は、被告前川勝の前示運転上の過失と比べて少なく、両者の過失の度合は、正男一〇パーセント、被告前川勝九〇パーセントと認めるを相当とする。

前記四の1ないし5の損害金合計二七七二万七九四五円から正男の右過失割合を控除すれば、残損害額は二四九五万五一五〇円となる。

27,727,945円×0.9=24,955,150円

七  損益相殺

前記乙第一〇号証の一ないし六、第一一号証の一ないし二三、第一二号証の一ないし二三、成立に争いのない第一三号証の一ないし三、弁論の全趣旨を総合すれば、本件事故につき、前記保険会社から治療費六一五万四〇九三円、付添看護費一六三万九三五九円、入院雑費四万三二六〇円、被告からその余の損害金四五万円、合計八二八万六七一二円の支払がなされていることが認められる。

前六項記載の損害残金二四九五万五一五〇円から、右既払分を控除すれば、その残損害は一六六六万八四三八円となる。

八  相続

成立に争いのない甲第六〇ないし第六三号証によれば、文子は正男の妻であり、原告らはいずれも、正男、文子の子であることが認められ、正男死亡により、同人の権利を昭和五五年当時の法定相続分に従い、文子が三分の一、原告らが九分の二ずつ相続したが、文子は本訴提起後の昭和五九年一月二七日死亡したことは、右甲第六〇号証により明らかであり、原告らは同日文子の前記三分の一の権利を三人で九分の一ずつ相続したから、結局、原告らは、前項記載の損害金を三分の一すなわち五五五万六一四六円ずつ取得したことになる。

九  弁護士費用

本件事故と相当因果関係がある損害金としての弁護士費用は八四万円をもつて相当と認める。

右費用を原告らが平等に取得するものであるから、前項の損害金に右弁護士費用二八万円ずつを加えると、原告らの損害合計は一人当り五八三万六一四六円ずつとなる。

一〇  葬儀費用

原告洋一が負担したという正男の葬儀費用は五〇万円をもつて相当と認め、同金額から前六項記載の正男過失割合一〇パーセントを控除すれば、同損害は四五万円となる。

原告洋一の前項記載の損害金五八三万六一四六円に右葬儀費用四五万円を加えると、同原告の損害は六二八万六一四六円となる。

一一  まとめ

以上の次第で、被告らは各自、原告洋一に対し、損害賠償金六二八万六一四六円、同治子、同文男に対し、同金五八三万六一四六円ずつ及び右各金員に対する昭和五五年二月二二日から各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり、原告らの本訴請求は、右認定の限度において正当として認容し、その余は失当として棄却することとする。

よつて、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 広岡保)

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